「わたしは、ダニエル・ブレイク」考察。福祉制度、格差。

社会的弱者の人々を主役にした映画で知られている「ケン・ローチ」監督の映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」。

この映画の背景にある社会問題について調べてみました。

ネタバレになることがあるので、映画を見られてから、読むことをお勧めします。

目次

1)「わたしは、ダニエル・ブレイク」 あらすじ

あらすじ

ニューッカスルに住むベテラン大工 ダニエルは心臓が悪く、働くことを医師に止められる。国から援助を受けようとするが、制度や申し込み方法が複雑で、「受けさせない」ようにしているかのようだった。自分と同じように経済的に困窮しているシングルマザー ケイティと、ケイティの二人の子供と出会い、助け合いながら、交流していたダニエルだったが…。

2)「わたしは、ダニエル・ブレイク」福祉制度など背景

2-1 北部に送られたシングルマザー 「北と南の格差」

ダニエル・ブレイクが出会ったシングルマザー ケイテイはロンドン出身です。

ロンドンの、とても狭い部屋で暮らしていましたが、福祉事務所の職員に「北に行けば、もっと広い部屋に住める」と言われ、知り合いのいないニューカッスルに引っ越してきました。

家賃がベラボウに高いロンドンでは、「北部(イングランドの)に行けば、もっと広くて良い部屋に住める」と言われ、北部に引っ越す生活保護者が多いそうです。

北部なら、生活保護者が受け取る住宅手当の中から家賃をまかなえるからだそうです。

このことは、「子供たちの階級闘争」に書かれていました。

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イングランド北部とイングランド南部では、格差があります。「ケン・ローチ」監督の映画はイングランド北部を舞台にしているものが多いです。

たとえば

  • 「ケス」
  • 「エリックをさがして」(マンチェスター)
  • 「わたしは、ダニエル・ブレイク」(ニューカッスル)
  • 「家族を想うとき」(ニューカッスル)

「北部」と「南部」について、分かりやすく説明された本があったので、引用します。

18世紀から北部は、産業革命の中心地だった。豊かな水と石炭は、新たに発明された機械 ー たとえば綿製品を作るのに使う紡績機 ー を工場で動かすための電力供給に用いられた。炭鉱は造船の基盤となる鉄鋼をつくり出す重工業を支えた。結果、イングランド北部には工場と港を結ぶ鉄鋼網が張りめぐらされた。イングランド北部繁栄の時代であり、工場を所有する産業資産家は巨万の富を築いた。

映画でわかるイギリス文化入門 227ページより

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→ その後、サッチャー首相率いる保守党は、鉱山を閉鎖すると決め、それに抵抗した炭鉱夫がストを起こしました。(ストは1984年~1985年)イングランド北部とウェールズに多くあったので、失業者があふれました。

「経済的に豊かな南部」と、「貧しい人が多い北部」という分断が強くなってしまったんですね。

それから何十年も経ちましたが、未だに爪痕が残っています。

↓ 衰退してしまった、北部のことなど、こちらの本に詳しく書かれています。

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2-2 申請はデジタル化、職員が少なく、気軽に聞ける人がいない

ダニエルは手当を受けるためにジョブセンター(日本でいうハローワーク)にあるパソコンを使って必要事項を入力しなければいけませんでした。

しかし、ダニエルは大工一筋で働いてきたので、パソコンなんて使ったことがありません。当然、全く分からず、近くにいた若者に教えてもらいますが、ずっと付いていてもらうわけにもいきません。

とうとう、ジョブセンターの閉館時間になってしまいます。

イギリスの方が日本より、このQRコードを読み取って、フォーマットに入力して…というものが多いです。さらに「ペーパーレス」が進んでいるので、紙に記入することは少ないです。

2-3 フードバンクが「日常」にならない方がいいけど、難しい

この映画の中で、印象的なシーンの一つは「フードバンク」でのシーンです。

シングルマザーのケイテイは、フードバンクで、子供と離れて食べ物などを選んでいる時、我慢できずにビーンズを開けて食べ出します。子供のために自分は食べずにいたので、空腹が限界に達していました。

「ごめんなさい…私」と泣き出してしまったケイテイをフードバンクのボランティアで働いている人は「いいのよ。大丈夫」と、慰めます。

↓「フードバンク」の職員を演じた人は、本当に「フードバンク」で働いている人だそうです。

「ケイテイ」がビーンズを開けて食べ出すことは聞かされていなかったので、あのリアクションは演技では、ないそうです。

実際に、彼女が働いているフードバンクで、その場でビーンズの缶詰を開けて食べた人がいたそうです。

この記事に書いていました。

https://www.chroniclelive.co.uk/news/north-east-news/daniel-blake-foodbank-scene-film-19811711

「フードバンク」は、本来、「一時的な救済」である方がよくて、皆が「フードバンク」に頼らなくても幸せに暮らせる世の中になるのが理想ですが、難しいです。

私は、ロンドンで二階建てバスに乗っている時、あまり裕福でないエリアの教会を通りすぎました。

その教会の庭で、ちょうど「フードバンク」の配給が行われていて、大勢の人がいたので、びっくりしました。

「フードバンク」については、この本で、詳しく説明されています。

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2-4 シングルマザーの貧困 

 

トニー・ブレア率いる労働党が政権を取っていたころは、シングルマザーは家を与えられ、養育費も出してもらえたので、何不自由なく暮らせていたそうです。

しかし、政権が保守党に渡ってから、福祉予算を大幅に減らしてから、シングルマザーの生活は変わったそうです。

(トニー・ブレアは、格差を拡大させたサッチャリズムを引き継いでいる面もありました。)

私はロンドンで、シングルマザーの大家さんと同居していました。彼女は離婚前、金融街シティで働く高級取りで、元夫は上流階級出身の人で、既にアパートを購入し、ローン完済していたので、生活に困っていませんでした。

彼女の友達のシングルマザーは、離婚する時に元夫から家を譲り受け、空いた部屋を貸していたので、悠々自適に暮らしているそうです。

イギリスでは、住宅価格は下がらず、特にロンドンでは、住宅価格は、高騰し続けています。

「不動産」を持っているかで、生活の余裕が違うそうです。

↓下記の2冊の本に書いていました。

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kiki

3)「わたしは、ダニエル・ブレイク」 実話?

ケン・ローチ監督の映画はドキュメンタリーのようだと言われます。「実話」だと思われた方もいたようですが、違います。どうして、”実話”のように感じさせるんでしょうか。

3-1 本当に働いている、普通の人を出演させる

フードバンクを説明した箇所にも書いたんですが、「フードバンク」でケイテイを慰めた職員は、本当に「フードバンク」で働いている人です。

ケイテイが何をするか知らされていなかったので、リアルなリアクションだそうです。

3-2 音楽がない

「わたしは、ダニエル・ブレイク」主演 俳優のインタビューによると、彼はケン・ローチ監督に

この映画には、音楽がないんだ。だから、俳優は、むき出しにされる。装飾がない映画なんだ。

と、言われたそうです。

3-3 撮影場所の部屋に入るスタッフは少ない

撮影場所の部屋に入るスタッフは少なく、シーンごとに「メイク」をチェックもされないそうです。

カメラは部屋の角にあり、「このカメラで撮るから」と指示されないので、自分が演技をしていることを忘れることがあったそうです。

3-4 撮影地 出身の人を配役する

ケン・ローチ監督は、ダニエル・ブレイク役の演者として、

  • ジョーディー(ニューカッスル出身の人)
  • 60歳前後の人(ダニエル・ブレイクは59歳だった)

を探していたそうです。

※ニューカッスル出資の人を「ジョーディー」といいます。

ダニエル・ブレイクを演じたデイブ・ジョーンズはニューカッスルの隣町出身です。

イングランド北東部は訛りが強いので、その訛りを話せる人の方がリアリティが出ます。

ケン・ローチ監督の、「わたしは、ダニエル・ブレイク」の次の作品 「家族を想うとき」の、母親役の女優もニューカッスルの隣町の出身です。

彼女は、イギリスの人気ドラマ「Vera」へのエキストラとしての出演以外、演技経験がなかったそうです。

https://www.chroniclelive.co.uk/whats-on/film-news/who-stars-sorry-missed-you-17178258

4)「わたしは、ダニエル・ブレイク」を見た後に読むのに、おすすめの本

「子どもたちの階級闘争」を読むと、「福祉」予算が減らされて困っている人の現状、貧困の現状が分かります。

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↓このページで、「わたしは、ダニエル・ブレイク」について、バービカン(ヨーロッパ最大の文化複合施設)職員による主演俳優のインタビューが聞けます。

この記事に書いてあることは、このポッドキャストから情報を得ました。

英語学習にも、どうぞ。

https://www.barbican.org.uk/read-watch-listen/from-the-archive-i-daniel-blake

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ABOUT US

バルサlillyingermany
山奥の米農家長女。27歳で初めてパスポートを作って台湾へ。ヨーロッパは、「別の世界」だと思っていました。日本で英語を使う仕事した後、ワーホリ申し込み不可の年齢になってからイギリス語学留学。 その後、スイスでworkaway(自分で探して手配したから無料)とヨーロッパ旅行。その後、ドイツで一年半生活。ドイツ一年目は、イギリスに10回渡航。 趣味は「イギリスが舞台の映画、ドラマを見る」、「知らない街散策」、「読書」etc。イギリスが好き過ぎて、「イギリスが舞台の映画」をたくさん見ているので、「この映画の、この場面で、△△が出てくる」など詳しくなりました。ブログで紹介している映画、ドラマは99%、自分が見たものです。 サステナブルな暮らし開始。(少しずつ)。通信制大学で社会学を勉強し始めました。 ブログは私が「行ってみた」「使ってみた」等、経験を基に書いています。「なんでもやってみてから納得するタイプ」です。