私は秋田県出身です。
初めて会った人に「秋田出身」だと言うと、
- 「秋田美人」(本当にキレイな人が多いと思います)
- 「英語で有名な大学がある(国際教養大学のこと、多くの県民にとっては直接関りは、ない)」
- 「いぶりがっこ」(良く知られた秋田名物だが、法改正により、生産者が窮地に立っている)
- 「なまはげ」(なまはげは、男鹿市だけの風習)
そして、「小中学生の学力テストが上位常連」というキーワードが出てきます。
今では、秋田県の小学校に他県から教諭が視察に来るくらい有名になっているようです。
多くの人が「なぜ、秋田県は小中学生の学力テストが上位常連」なのに大学進学率が低いのかを不思議に思っているようです。
秋田県の県庁所在地では、ない町の、農家の長女として生まれた私が思う「理由」をお伝えします。
目次
1)ニュースの話題になっている「学力テスト」は?
「学力テスト」は正式には「全国学力・学習状況調査」です。
1956年に、小中高生を対象に始められましたが、1962年に高校生対象の調査が中止され、1966年に「学力調査」そのものが中止されました。
その後、2007年に全国の小学6年生、中学3年生を対象に復活しました。
最初はテスト科目は「算数(数学)、国語」だけでした。
現在は、下記の表になっています。
小学生 | 中学生 | |
テスト科目 | ・算数、国語、理科(3年に1回) ☆2019年から英語を追加 | ・数学、国語、理科(3年に1回) ☆2019年から英語を追加 |
☆学力調査(2019年度)の順位
小学生と中学生の学力調査の結果(正答率)を合わせた結果です。
2)なぜ秋田県は小中学生の「学力テスト」上位常連なのに大学進学率が低いのか?
☆大学進学率が低い県
高校卒業者の大学進学率 秋田県の位置(平成30年度)
・47位 鹿児島県 32.4%
・46位 鳥取県 35.6%
・45位 沖縄県 35.7%
・44位 大分県 37.7%
・43位 山口県、宮崎県 37.8%
・42位 岩手県 38.7%
・41位 秋田県、山形県 38.9%
平成30年度「学校基本調査」表「高等学校卒業者の都道府県別進学率及び卒業者に占める就職者の割合」より
2-1「親が高卒の人が大半」親ガチャと大学進学率の関係
・「見たことがないものには、なれない」
秋田県は、最終学歴が高卒の人が多いです。
今はインターネットやテレビで、いろんな人の人生を知ることが出来ますが、一番の「人生モデル」は身近な存在の「家族」です。
「自分も高校を卒業したら、地元で就職して農業と家を継ぐ」という未来を考える人が多いです。
私も、そう思っていました。
人は、「自分がこうなる」というのが想像できないものには、なりづらいと思います。
「思考がシャットダウンされる」というか、「これしかない」、「こういうものなんだ」という風に考えてしまう時があります。
「見たことがないものにはなれない。」
貧困家庭の子供たちのために活動している社会活動家マリアン・ライト・エデルマンの言葉です。
今は、インターネットで、世界の動画を見られる時代ですが、自分とは「遠い世界」、「別の世界」で起きていることと感じて、自分の中に入ってきづらいこともあります。
最初から「選択肢」に入らないんです。
違う視点でアドバイスしてくれる人に出会えると、選択肢が広がると思います。
ドイツで、ドイツの大学進学を目指して語学学校に通っている日本人の20歳の男性に出会いました。
彼も、日本海側の県の、小さな町出身でした。
彼の出身の町はドイツの、ある市の友好都市で、市役所(町が合併して市になった)でドイツ人が働いていたそうです。そのドイツ人に話を聞いて「ドイツなら自分も大学に行ける」と思い、ドイツに来たそうです。
そういう風に、「直に話を聞ける人」って貴重だと思います。特に田舎では…。
・「生まれた家は変えられない」「変えられることに尽力するしかない」
私は、ドイツに住んでいる時、「親が駐在員だったので帰国子女、自分も駐在員」という人をたくさん見ました。(自分の意志で海外に住んだ訳では、ないので嫌だった人もいると思います。)
「貧困は連鎖する」と言いますが、「生まれた家」「環境」は進路に影響します。
「生まれた家」は変えられないので「変えられること」に尽力するしかないです。
「上を見ればキリがないくらい、お金持ちの人は、たくさんいて、下を見れば、自分より貧乏な家に生まれた人、親に子供を育てる能力が無かった人、育児放棄された人もいます。」
「”下”とか言うな」「日本は他の国より格差は少ないんだぞ」という人がいると思いますが、日本でも、世の中には自分が想像できない状況の人がたくさんいます。
貧乏だったり、進学費用を自分で出さなきゃいけなくても、自分でどうにかしようとする人もいます。
私は、そういう人たちと働いたことがあります。
貧乏な家に生まれたけど、一冊の中日辞典がボロボロになるまで独学で勉強して、日本語を習得した中国人、貧乏で、100円均一で買った英語の本から英語の勉強を始めた人です。
こちらの記事も、どうぞ。
「海外生活」未経験者は日本で英語を使った仕事に就けない?「条件が揃うまで待っていたら、何も出来ない」
しかし、そもそも貧乏な家や親に問題がある家に生まれてしまうと、「進学して、〇〇を勉強したい」「〇〇になりたい」と考えられなくなってしまう人がいると思います。
2-2 「秋田には大学を卒業して、勉強したことを活かせる仕事が少ないというか仕事が本当に無い!」
秋田県には、大学を卒業してから就く仕事は「学校の先生」か「県庁職員」、「市役所職員」などしか無くて、子供は大学を卒業して就く仕事を想像できません。
他には「医師」、「家畜の様子を見に来る、家畜の医師」などだと思います。
それに、「大学に進学しても、地元に勉強したことが活かせる仕事がないなら、大学進学の意味がない」という人もいます。
私の同級生は、ほとんど工場で働いています。
今年(2021年)は秋田県内の今春高卒予定者7424人のうち、就職希望者は1721人です。県内就職希望者は1382人です。
就職希望者のなかで、「県内就職希望者」が過去最高の80.3%になりました。(秋田県の地方紙 秋田さきがけ新聞 2021年12月3日 より)
都会に出ても長男、長女なら、いつか戻ってきて、「実家の農業と家を継ぐ」ことを期待されています。
よく、都会の人と話すと、「地元に帰れば家から仕事に通えて、お金も貯まるし、いいじゃない?」のように気軽に言われますが、いやいや、本当に仕事が無いんです。
☆ 期日前投票率が全国一の秋田。なぜ?
「じゃあ、あなたは、どうして農業を継がずに、実家にも戻っていないかって?」
秋田に、あまりにも仕事が無いので
「帰っても無職で家にいるくらいなら帰ってこなくていい」
と、親が言ってくれたからです。
私の地元は、歩いてる人が全然いないし、監視社会なので、歩いてるだけで
「どごなえのもんだ?何しったもんだべ?」
(意味:どこの家の人かな?何をしてるんだろう?)と、通り過ぎる車から見られ、噂されるので、そんなにいてほしくないんだと思います。
本当に地元の人しかいない社会です。
「人が歩いていない」ことは秋田県知事も去年、言っています。
そもそも郡部においては、普通の時も人が歩いていませんので、あまりピンとこないと思います。
2020年4月16日 新型コロナウイルスの拡大で全国に緊急事態宣言が発令され、対策本部を設置した際の会見より。
「’監視社会’なんて、大げさだなあ」と思うかもしれないんですけど…。
監視社会っていうか「たいてい、みんな知ってる人で、しがらみがキツい」です。
秋田県は選挙の「期日前投票率」が高いです。
☟「秋田」の期日前投票率が高いことについてのNHKの記事
https://www.nhk.or.jp/senkyo/chisiki/ch18/20180301.html
「どうして、期日前投票率が、こんなに高いのか?」
近所の投票所に行くと、近所の人が係員として、働いていて気になるから、期日前投票する人が多いんだと思います…。
スーパーマーケットに期日前投票所を設置していたり、「選挙カー」が過疎の町内を周って、その中で投票できたり、期日前投票しやすい環境があることも原因だとは、思います。
農村は農作業、行事を町内というコニュニティで協力して、行っているので、そのコミュニティから外れたら、そこで生活するのは難しくなります。
☟こちらの記事もどうぞ。
「世間を気にする日本人」なぜ? 鴻上尚史「孤独と不安のレッスン」感想
2-3 「親の収入が低いので、子供が進学を遠慮する」「農業の収入は低い」
都道府県別年収(2019年8月から2020年8月」
転職サイト「デューダ」より
秋田県は平均収入が低いです。
昔は米の値段が今より高かったので、稲作をしていても、今より利益がありました。
今は、稲作をしていても収入が低いです。
去年はコロナウイルスの影響で、米の需要が低く、米の値段が下がり、「赤字」でした。
たぶん、今年で稲作をやめる農家がすごく多くなると思います。
→すでに、「来年は稲作しない」という農家が出ています。
大変なだけで、赤字。誰が続けますか…。
農業だけでは暮らしていけないので働きに出ている人がほぼ100%です。
農業をするための機械、「田植え機」、「トラクター」、「軽トラック」、「コンバイン」なども古くなったら買わなければいけないし、お金がかかります。
一年に一回しか使わないけど、農機具は高いです。
2021年11月に放送されたNHKの「新日本紀行」という番組で、米農家を継ぐために実家に戻った男性が
「今年は米の値段が安くて」と、笑いながら言っていましたが、うちは、そんな風に言えません。
まだ10歳くらいの子供もいるから、明るく言われていたと思いますが。
kiki
長野や群馬のように首都圏まで近ければ、「高原野菜」や「珍しい野菜」を栽培して、首都圏のレストランに卸して、収入を上げることも可能です。
しかし、秋田県は首都圏から遠すぎます。
(こうも言っていられないので、何か売れないかと計画中です。秋田の隣の山形県は商売上手なので、秋田県は見習った方がいいと思います…。秋田が持っているものが悪いわけじゃないし、がんばっている企業もありますが)
子供は、親に遠慮します。
家計が苦しそうだと、無意識に自分で「進学」を選択肢から外すと思います。
高校を卒業してから上京して、周りの、首都圏出身者が当たり前のように進学していて驚きました。
しかも、「高校も私立だった」という人が結構いて、圧倒的な「地方との経済格差」を感じました。
私の父親はバブル時代に20代だった、給料がずっと高かった世代で、田舎の中では給料が高い方(中流だったと思います)でしたが、それでも、都会の人とは、「差」を感じました。
2-4 「学力調査」の上位維持のからくり?
秋田弁で「えふりこぎ」という言葉があります。「かっこつけ」という意味です。「いいふりをする」が訛って、「えふりこぎ」になったようです。
「あえだば、えふりこぎだおん」みたいに使います。
「あの人は、かっこつけだからね」という意味です。
秋田県民は、「かっこつける」、「人に弱い所を見せられない」ところがあるので、教育委員会は、ここまで有名になった、「学力調査」上位常連の地位を必死に守るために対策していると思います。
学校の先生のことを想像すると、すごいプレッシャーなんじゃないかな…と思います。
https://www.mhlw.go.jp/content/H30kakutei-01.pdf
「厚生労働省」都道府県別に見る年間自殺死亡者数
「厚生労働省」
この「えふりこぎ」な所が秋田県の自殺率が高い原因の一つでは、ないのか?とも思います。
男性の方が自殺率が高いのは「弱いところを見せられない」からだと思います。
悩んでいても、人に相談できずに死を選んでしまうと思います。
秋田県が「学力テスト」上位常連なのは、とても誇らしいことです。しかし、それが実際に秋田県の子供のために多いに役立っているのか?は疑問です。秋田を歩くと、*「少子高齢化率 1位」の県だということを実感せざるを得ません。
「ノーザンハピネッツ」(秋田の活性化のために尽力しているバスケットボールクラブ。*こども食堂もオープンさせました)、「花善」(2021年11月、パリの駅構内にも出店する”鶏めし”が全国的に有名な駅弁屋)など秋田を活気づけている企業があります。子供の学力が高いことが目に見える形で、子供たちの明るい未来に結びついてほしいです。
秋田にいらっしゃって、どんな所か、ご覧になってみてください。
kiki
*2020年 国政調査 人口増減率 秋田県はマイナス6.2%で、国政調査3回連続1位です。高齢化率は37.5%で、全国1位です。
(秋田県の地方紙 秋田さきがけ新聞 2021年12月2日 より)
↑「少子高齢化率」一位 常連(というか不動の一位になってしまっている)なので、既に、なっているのかもしれませんが、全国のモデル県になって対策を練ればいいのでは?と思います。
「花善」については、こちらの記事をどうぞ。
パリに常設路面店あり パリとリヨンの駅構内にも出店 大館「花善」鶏めし
こちらの記事も、どうぞ。
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